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ワインの知識

 ヒュー・ジョンソンとロバート・パーカーJr. ワイン評論家って?
ワインと評論家―その1―

昨今、いわゆるワインの評論家の著述や評価本がかなりの数出版されています。実際、消費者を含め我々にも役立っています。そしてその論評の仕方には二つのスタイルがあるようです。

その一つは、ワインにスコア(点数)をつけることで分かりやすく訴求したスタイルです。100点満点中の何点というやつです。そーです。あのロバート・パーカーに代表されるスタイルです。いかにもアメリカ人らしい簡単で明朗なやり方です。

パーカーに高得点で評価されることで一躍シンデレラワインとなったワインの多いこと。また読者(消費者)の裾野を大きく広げたことは、革命的と言えます。ワイン好きの消費者はやれパーカーポイント何点か?ということがワイン選びの判断基準となっており、売る側もパーカーポイント何点というのが謳い文句となっています。たしか、彼はフランス大統領から大勲位(レジオン・ド・ヌール勲章)を叙勲されたほどです。私は、ワイン界のナポレオンと彼のことを呼んでいます(笑)。さらに数百年後にはワインの聖人になっているかも(笑)?

その一方のスタイルはヒュー・ジョンソンに代表されるヨーロッパスタイルの評論家です。★印で品質の評価を行ないます。だいたい4段階から5段階の評価となります。また、頻繁に版を改訂することで記述が変わってゆくのでその変化を追ってゆくと面白いです。たしか一番古い版のものがないので記憶をたどることになりますが、ヒュー・ジョンソンの代表的著書の一つであるポケットワインブック日本語版では当初『日本』の項目では、日本のワインが輸入ワインを国産と偽って販売していることを「恥をしれ!」と憤激していました。しかし、版を重ねて最近の版では日本の市場と生産の特殊性を理解しているようで端的に日本国内のワイン事情を語っています。(この『恥をしれ!』の一言はその後日本のワイン生産に大きな影響を与えたと思います。)

またワインブックでは料理とワインの相性についても記述があり、SUSHI(寿司)の項目では当初は「わさびの辛さが邪魔をするので合わすワインはない!」となっていたのが、「ドイツのQBAクラスの辛口かシャブリで十分、日本酒もよし。」と変わり、三版では「ビールもよし」と加わり、四版ではさらに「無年号の辛口シャンパンもよし」が加わるまでに理解されました?最近のワイン雑誌でモエ・シャンドンのヴィンテージシャンパン(ドン・ペリニョン)を寿司などの日本料理に合わせる宣伝企画に出ていましたから、次回の改訂では「東京の寿司バーの名店にゆけば、ヴィンテージシャンパンに合う料理に巡り合える。」と改訂されるのではないかと期待しています(笑)。思わず「いい加減にしろ!」と言ってしまいそうですが、多分彼は「今回のドン・ペリニョンと寿司の企画はたんなるプロモーション活動で、評論活動ではない。」とイギリス人らしく答そうです(笑)。

ロバート・パーカーの著書『ボルドー』の1991年版と2004年版を比べると面白い発見があります。彼の得意とするスコアについてみてみることにします。例えば、サンテステフ第二級格付けのシャトー・コス・デストゥルネルの共通するヴィンテージの評点を1991年版と2004年版で比べることにします。

  1989 1988 1987 1986 1985 1984 1983 1982
1991年度版 90 86 83 95 95 84 85 97
2004年度版 88 87 93+ 92 78 96

※1984, 1987年ヴィンテージは2004年度版ではすでに飲める状態ではないため評点がありません。

1991年版より2004年版の方が全体として評点が下がっています。それと内容なのですが、かいつまんでいうと1991年版より飲み頃が伸びています。ワインの寿命が伸びているのに評点が下がっています。とても不思議な現象です!1991年版の時点でワインの評価を煽った訳です。ただこれには、深い裏事情が察せられます。それは1980年代から90年代にかけて流行ったマセラシオン・アショーという果汁を熱することでタンニンを抽出する方法がかかわっています。この技術を利用してつくったワインが、どの程度ワインの寿命に影響するか未知数だったのです。だが2000年を過ぎて、とりあえず熟成はしないがワインの寿命が伸びることが確認できたため飲み頃が伸びた訳です。コス・デストゥルネルの現マネージャーが告白していましたが、1980年代以降コスは80hl/1haもの収量でワイン造りをおこなっていました。(ヴァン・ド・ペイ並の薄さです。)最近は50hl/1haくらいになったそうですが…(まあ、ぬけぬけとよく言います(笑)。)当時はなんでこんなに薄くて不味いのに高値なのか疑問でした。マセラシオン・アショーは薄いブドウ果汁から濃いワインを作り出す錬金術でしたから。そうすると2004年版で1989年ヴィンテージと1999年ヴィンテージが同じ評点(88点)であることは疑問であり、同じ土俵で論じること自体が意味のないことです。百歩譲ってもスコアを付けた時点での相対的評価でしかありません。無理な絶対評価を貫こうとすると馬脚が出てしまいます。その点ヒュー・ジョンソンは利口です。先のことは分からないことを知っています。

 ここで両者の立場を整理してみます。ヒュー・ジョンソンは読者をワイン愛好家と呼び、自分の著作が愛好家達の水先案内人となれることを望んでいます。ロバート・パーカーは読者をワイン消費者とし、自身の著作が購入の際のガイド本となるように考えています。この為パーカーは自身が関わっているワインプロジェクトのワインを論評することを避けます。逆にヒュー・ジョンソンは自身が関わるプロジェクトのワインを隠さず憶さず積極的に読者にセールスします(笑)。大きな声ではいえませんが、先日ソムリエ協会の紹介で、ある輸入業者からダイレクトメールがきました。なんでも投資家向けにボルドープリムールの販売をするらしく、ロバート・パーカーをゲストに呼んで推奨銘柄を教えるから、お金持ちのお客さんを連れてきてくださいとの内容でした。

まあ、実際はヒュー・ジョンソンもロバート・パーカーもやっていることは同じようなものですね。ただし、ビジネスとしてのワイン評論家として自立した自我を持っているヒュー・ジョンソンの著作の方が文化的であり、学ぶことが多いですね。

社団法人 日本ソムリエ協会認定 ソムリエ
岡本 利秋

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